「こんな夢を見た」から始まる小説

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こんな夢を見た。私は薄暗い部屋でキャンバスと向き合っている。白の上に筆で色を乗せていく。ある光景に、言葉に出来ないほどの感動を覚えたからだ。写真でも撮っていれば良かったのだが、衝撃でその場に立ち尽くすしかできなかった。だから、記憶を頼りに描くしかない。最初は、文字に認め自分のものにと思った。だが、あれを稚拙な私の言葉で表現出来るわけがない。今度は、絵を描くことにした。見たままを描ければ、きっとあの時の感情をこの中に永遠に閉じ込めることが出来る。そう信じて、私はひたすら描き続けた。だが、完成するのは何の感情もわかないただの絵だ。出来上がった絵を何度も破り捨て、私は頭を抱える。このまま描き続けても、私の記憶の中のあれには届かない。それに描いているうちに、あの光景の記憶が私の絵に上書きされている気がする。描くのはやめよう。あれは私の許容量を超えるほど、美しかったのだ。形として残すことは出来なくとも、私の中で消えることはない。無理やり自分を納得させ、筆を置く。外の空気でも吸ってこよう。部屋を出ようとして、足を止める。結局、私は熱心に何を描いていたのだろう。ふと、気になって絵の残骸を拾う。見れば、色が無秩序に塗られているだけだった。何だ、こんなものに感動していたのか。がっかりして絵を放り投げ、部屋を出た。家の外に出ると、眩しくて目を細めた。地面には、プリズムを通したような虹の帯が反射している。空に浮かぶ何かが反射しているようだ。見上げれば、空を覆い尽くすほどの大きい透明なクラゲがいた。それに太陽が反射し、虹の帯を作っているようだ。私はその場に立ち尽くし、それから歓喜する。思い出した、私が見たのはこれだ。

4/12/2026, 6:24:04 AM