【あじさい】
目の前がくすむ視界の中。
轟々と横槍の雨が降る。
それはまるで、別世界へ誘われたような心地がして。
我思う。この僅かな色彩の霞の世界へ身をーー。
◾︎
西暦x年。
この世界には雨しか降らない。
ざぁざぁと。
ポツポツと。
晴天の日を生まれてこの方見た事がない。
昔、昔のお話では、お日様とお月様があり、どちらも天遠い大空に燦々と、淡々と輝いていたらしい。
「ねぇ、お母さん。なんで雨は降り続けてるの?」
それは神様がお怒りになったからだよ。
「なんで、かみさまは怒っちゃったの?」
地上に住む人々が、人殺しや戦争、自然に悪さをしたり、苦しい事や、悲しい事をいっぱい。いっぱいしてしまったからだよ。
「いっぱい??」
そういっぱい。
母は言いました。これは神様の怒りの声だと。
近所のお爺さんは言いました。これは神様の悲しみの雫だと。
雨が降りやまなかった当時、地上に住む人々には色んな災害を体験したと授業で習いました。
津波や地割れ。
浸水や、土砂崩れ。
人口は減り、人々は住むことろを無くし、今の姿になったそうです。
そう。鉄と塀に囲まれた、大きな水路がある水の都市に。
食べるものも減りました。
昔は野菜や肉などもあったらしいけど、今は固形のステックや、プロテイン。
味の薄いシリアルバー等。
昔は大陸に色んな国が混在し、それぞれの文化があったとされてます。
でも、今は違う。
名前も、髪色も話す言葉もすごく少なくなったとされてます。
私の住んでるところは、大和国。
帝都・時雨区、港町。
名前は、詞音・栗花落 (ことね・つゆり)
どこで混ざってしまったのか。
その記載は残ってません。
ただ、細々とした細い繋がりの中。
苗字と名前を逆に綴る国になったそうです。
私は思います。
ザァザァと横槍の雨の日に。
しとしとと遠くまで澄んで見える雨の日に。
いつか、神様って存在の。
哀しみや、苦しみが、少しでも軽くなった頃。
分厚い鉛色の雲の向こう。
産まれてこの方。見た事がない青色の空。
光の柱から零れる七色に輝く梯子を。
いつか。いつか。ーーーーみてみたいと。
6/13/2023, 11:24:43 AM