『日の出』
ようやく日の出が見られる。
今日は最悪な一日だった。
ことの始まりは、こうだった。
昨日の夜、星が瞬く夜空が綺麗な日。
築数百年は建っているだろう、補修と改造を繰り返した西洋風の小さなお城の、とある一室にて。
「一緒に、日の出を見ましょう!!」
「もう正月は過ぎていますよ、レディ」
「そんな事は些事です! 思い立ったが吉日なのです!」
くるくるの髪の毛に、くりくりの目玉の小さな小さなレディ。
執事である私が仕える、怪獣の如きお嬢様だ。
「レディ。朝はとても寒く身体が動きにくいのです。朝はココアを飲んでゆっくりと暖かい家の中で過ごしましょう」
「もう! あなたはいつもそうです!! まだまだ若いというのに、何をお年を召したご老人のような発言ばかり! です!」
ぷんすこと怒る可愛らしいレディ。
あー、これは長引く。
私は長年の経験により、天秤にかけて一時の艱難を甘んじることにした。つまり、諦めたのだ。
「分かりましたよ、レディ」
「!! じゃあ、じゃあ!!
「日の出、見に行きましょうか」
「やったーー!! なのです!」
そして、私は夜明けに、眠け眼のレディを起こして、日の出を見に行くことになった。
色々とあった。
ちょっとした短時間、城の屋上に昇るだけだったのに。
なんで、こんなときに侵入者やら、レディの命を狙う暗殺者やらやってくるんだ。
たしかに、そんじょそこらの仕事より高給取りだが、今回の一件だけで言うと、まったく割に合わない。
私は、くったくたの煮浸しみたいな姿になりながら、夜明け直前の城壁に背を凭れかかる。
そのとき――うっすらとまばゆい光が眼球を直視した。
やっと目に出来た、日の出だ。
「ねぇ! とってもとっても綺麗ね!!」
「……えぇ、そうですね」
笑ってはしゃぐレディの方が綺麗ですよ。
なんて思ったが、クサイ台詞は自分には似合わないので心にし舞い込んだ。
なんだかんだあって疲れたが、結局のところ私がこの仕事をやめないのは、レディの笑顔が見たいからだろう。
百の苦労にも勝る、小さな花のような笑顔があった。
それだけで、どんなことも報われる気がするのだ。
「寒いでしょう。ココアでも淹れましょうか」
「本当!? じゃあ、お願いするのです!!」
ニコニコと笑うレディに、こちらも思わずつられてしまう。
温かいココアを飲むために、二人で階段を下りて行った。
おわり
1/3/2026, 11:16:42 PM