▶60.「1年間を振り返る」
59.「みかん」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「うふふ、ようやくここまで来たわねえ」
事務室にいる子猫は、
店の帳簿と自分の覚え書きとを照らし合わせながら、
にんまりと上がる口角を抑えられなかった。
花街で生まれ、花街で育った子猫。
ほかの生き方など知らぬが、
たまに訪れる人形のように自由に外を見てみたい。
人形にしか話したことがない、密やかな夢。
花街の女だった母親が病に倒れたとき、
子猫は自らを店へ売り渡した。
子猫の母親は我慢強い人であった。
それでも、それでも最後に、自分の子どもが欲しくなった。
そんな人間らしい愚かさを持った母親を、子猫は愛していた。
母親の身請けに薬代、さらに子猫のそれまでかかった養育費まで、
かなりの金額になった。
この1年間に来た客の顔と収支を振り返り、
そして、
使わないからと言って少し多く包んでくれる人形を思い。
微笑みを優しいものに変えて、
帳簿と覚え書きを閉じた。
12/31/2024, 9:19:00 AM