一夜の夢

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一年後、扉がノックされた。
鍵なんてかけてないのに律儀なやつだ。
僕は扉を開けてやった。

「やあ」

まるで昨日も会ったかのように、戸口の君が片手を上げる。
僕は無言で不機嫌を伝えた。
歓迎ムードじゃない僕に気がつき、君は不思議そうな顔をした。

「怒ってるのか?」
「当たり前だろ。君、一年も何してたんだよ」

そう、一年も。
今日は君がふらりと散歩に行って戻らなかった日から、きっかり一年後だ。
君はきっと僕の心配や悲しみなど気にもしていなかったんだろうな。

「そうだ、おまえに土産があるんだ。珍しい菓子だぞ」

背負ったリュックサックをごそごそやりだす君を、僕は抱きしめた。
まったく。人の気持ちなんてわからないくせに、こんなことばっかり覚えやがって。
ずっと我慢していた涙が溢れ、君の肩口を濡らしていく。
びしょびしょになればいい、勝手に出て行った罰だ。
僕はそっと口を開く。

「おかえり」

君は戸惑ったように身じろぎし、少し迷って恐る恐る僕の背に腕を回した。

「ただいま」

5/8/2024, 2:10:09 PM