笛闘紳士(てきとうしんし)

Open App

一人の少年が、公園のベンチで仰向けになって空を見ていた。その時、髪の長い小柄な少女が少年の顔を覗き込みながら声をかけた。

『何でいつも空ばかり見てるの?』
「パパが空に居るんだ」

それを聞いた少女は、ハッ とした表情をすると、顔を伏せて少年に謝った

『ごめん…』

「何で謝るの?…そっか!言い方が悪かったか。僕のパパ、国際線の旅客機の副操縦士で、機長って呼ばれる、パパより立場が上の人と一緒に世界中の空を沢山の人を乗せて飛んでいて、毎日帰ってくる事は無いんだ。ママは家にいるけど、やっぱりパパの事を思うと少し寂しくて。でもね…この、どこまでも続く青い空の先の何処かに、パパが居るんだなって考えたら寂しくなくなる」

『それじゃあ、空を見ている時はいつも寂しいと思っているの?』

「それは違うかな。寂しいって思った時じゃなくても、このベンチで仰向けになって空を見る事はあるよ。例えば友達と喧嘩して嫌な気持ちになった時とか、テストで100点取って嬉しかった時とか、ママに怒られて落ち込んだ時とか。でも、ネガティブな気持ちになった時にここで空を見てたら、僕の嫌な気持ちを空が食べてくれて心が軽くなる気がするんだ。嬉しい時に空を見たら、もっと嬉しくなれる」

『そうなんだ』
少女は少年に、少し頬を赤くしながら微笑んだ。その時、少女の友達が少女を少し怒った声で呼んだ

「見つけた。てか、隠れてすらいないし…かくれんぼする気あるの?💢』
少女は友達に手を合わせて友達に謝った。

『ごめん。この子の素敵な話聞いていたら隠れるの忘れてた』

「もう。次、オニだからね』

『うん。そうだ!一緒に私達とかくれんぼしない?』

「え?」

少女からの突然の誘いに少年は体を起こして戸惑った。そこで少年は恥ずかしそうな顔をしながら交換条件を出した

「いいよ。その代わり今度、俺と一緒に空を見て。空見る…友達になって」

友達になって。そこだけ口調が少し強くなったのを少女は感じた。

『うん、約束。それじゃあ今度、一緒に見よ』

それから少年は少女達とかくれんぼをやった。それから数日後
今度は少女が少年の約束を守って、二人で青い空を眺めた。やがて時は経ち、二人はすっかり友達になった。

そんなある日

『急な話でごめんね。私、お父さんの仕事の転勤で引っ越す事になったの。だから、もう会えないかも知れない』

「かも知れない?」

『国際線の操縦士になるのが夢って言ってたでしょ?それなら私はCAになろうと思うの。飛行機君と話していて、私も飛行機が好きになったの。これ、私の最終的な夢なんだけどね…いつか国際線のCAになって、飛行機君が搭乗する飛行機で、一緒に仕事をするの。なれるか分からないけどね。お互い、他の仕事をするかも知れない。あのね…、飛行機君と出会ってから何度も見てきた空の中で、今日の空が一番綺麗に見える』

彼女の目には涙が滲んでいた。ちなみに飛行機君は彼女が僕につけたあだ名である。

僕は公園のベンチに仰向けになって夕焼けの空を眺めた

「本当だ。今までで一番綺麗だ」
それから数日後、彼女は引っ越して行った。


それから10年以上が経過した頃だろうか?その日の出来事を忘れかけていた僕は、航空会社で副操縦士になっていた。
そんなある日、CAとして勤務する彼女と偶然再会した。僕達は互いに夢を叶えていたのだ。

※この物語はフィクションです

どこまでも続く青い空 作:笛闘紳士(てきとうしんし)

10/23/2024, 3:14:28 PM