たーくん。

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平日でも人が多い地元にある大きい病院。
一時間以上、待合室で待ち続け、ようやく名前を呼ばれた。
病院で待っているだけでも、疲れてしまう。
少しふらふらしながら、診察室へ向かった。
「どうされました?」
「最近、幻聴というか……なんというか……悪魔のささやきが聞こえるんです」
「どんなささやきです?」
「仕事に行こうとしたら『今日はサボっちまえよ』とか、残業前には『皆に任せて定時で帰ってしまえ』とか……」
「ふむ。ささやきが聞こえることが多いのはどこですか?」
「仕事がある日ですね」
「ふむ」
医師は俺の顔をじーっと見ている。
俺が悪魔のささやきが聞こえるって言ったから、変な奴だと思われているのだろうか?
今日は課長に無理言って有給を取って病院に来た。
あとで報告の電話をするけど、なにか言われそうで不安だ。
「人手不足なのに」ってボヤいてたからな……。
「働きすぎですね」
「えっ」
医師からの言葉に思わず驚く。
そんなに働いてたっけ、俺。
「いつも何時間ぐらい仕事を?」
「残業込みで十五時間ぐらいで、土曜も出勤してます」
「ふむ……。さっき言ってた幻聴は悪魔のささやきではなく、もう一人のあなたが警告していたんだと思います。身体を休めるようにと」
「もう一人の俺……ですか」
自分では自覚なかったが、知らず知らずのうちに無理をしていたんだな……。
「そうです。なのでしばらく仕事をせず休むように。診断書を書いておくので、会社へ渡して下さい」
「は、はい」
診断書を貰い、病院を出る。
『やったな!これで仕事サボれるぞ!』
また悪魔のささやきが聞こえてきた。
いや、これはもう一人の俺……だっけか。
『あとは皆に任せて、ゆっくり休もうぜ!』
そうだな。診断書を貰ったことだし、しっかり身体を休めよう。
……本当にそれでいいのか?
課長は人手不足と言っていた。
俺だけ休むと考えると、罪悪感が沸く。
「……ふぅ」
スマホを取り出し、課長に電話した。
「診察結果はどうだった?
「異常……なかったです」
「そうか。それはよかった。今から出てこれるか?人手が足りなくて困ってるんだ」
「分かりました。すぐ行きます」
電話を切り、スマホをポケットに入れる。
『……おい、それでよかったのかよ』
「ああ……いいんだ」
俺は診断書をクシャクシャに丸め、会社へ向かった。

4/22/2025, 3:13:28 AM