2日目;冬のはじまり
ことしもまた、一週間だけ訪れる「季節はずれの冬」が始まった。
あたしの誕生日には、毎年毎年、雪が降る。まっしろで、悲しみをさそう白いふゆの妖精が。
「ごめんなさい、にいさん」
五度目の、懺悔。降り積もった白く冷たい雪に両膝を埋めて、両手を絡め、目をつぶる。両目を伝う涙は、すぐに冷やされ雪にシミをつくった。
あたしの誕生日は、双子のにいさんの誕生日でもある。そして、命日でも。
あたしが殺した。あたしがにいさんの未来を消したの。このことを知っているひとはみんな、あたしを悪くないって言う。悪いに、決まってるのに。
宝石飼いの一族。魔法使いは数百年まえには、ほとんどみんないなくなっちゃった。魔法が使えるのは人と敵対する魔物と、魔力の宿る宝石、魔石が生まれつき皮膚に埋め込まれて生まれるあたしたちの一族だけ。生まれてすぐに言語を理解して自我を持つのも、あたしたちの一族だけ。
あたしたちは魔石を砕いて魔法を使う。それで、魔石を全部使っちゃったらあたしたちは死ぬ。
あたしは、魔石を多く持って生まれた。それも、高密度な魔力を宿した魔石を。だから、生まれてすぐに魔力の制御ができずに暴走した。暴走して、魔石を壊して、にいさんの魔石をも砕いて殺した。
にいさんの魔石は、たったの一個だけだったから。
あたし、しってるよ。
にいさんを双子の妹のあたしが殺したから、次にまたお母さんがお腹に宿したのが双子だって聞いて、怯えて泣いたこと。お母さんよりも非力なお父さんが頼もしくあろうと気丈に振る舞ってたこと。
事故のようなものだ、シェリーは悪くない、誰も悪くないんだ、とあたしに言い聞かせたお父さんの手が震えて、目に水の膜を貼っていたこと。
生まれてすぐのにいさんが、あたしを責めなかったのも……しってる。
この国がすき。あたしは元々明るい性格。家族がだいすき。だから、あたしは。許されなくても、嘘で武装して生きるの。
あたしは、だれかのきぼうにならなくちゃ。
「……そこの、きみ。こんな日にそんな小さな体で出歩くのは、危険」
途端にじんわりと感覚の戻った四肢。顔を上げれば、幻影のような青いツノ、積もる雪の上を滑る長い黒髪、そして黒から疎に現れる夜空の色が印象的なおんなのひとが、立っていた。
気づけば見慣れない木製の小屋の中にいて、白い世界からあたしは隠されていた。
このひととの出会いが、あたしの。あたしたちの、結末を変えたの。
11/29/2023, 11:49:30 AM