こういうときに「まって」と思ってしまうのは、僕たち子供の本能なのだと思う。
今日の作戦の終了間際にも、リーダーにすがりつく、遺された子供が何人もいる。
僕たちが村の“奪還”を命令されるのは、これが最初じゃない。
重たすぎる装備を担いで、略奪と虐殺を繰り返すこの奪還作戦は、非力で経験不足の僕ら少年兵部隊の仕事だった。
村に残っている大人たちを、銃やらなんやらを使って、追い立てて、食糧やら物品やらを押収して、最後に証拠を隠滅する。
それが僕たちの仕事だ。
そして僕たちも、そういう、少年兵が“奪還”した村の子供だった。
親や信頼できる大人やちょっといけすかない、でも確かに僕たちの仲間だった大人を殺した少年兵部隊たちに、僕たちは加わった。
そんな敵に与するようなこと、なんでするんだ、と大人たちは思うかもしれない。
でも仕方ないのだ。
子供の本能でどうしようもないのだ。
僕は、僕の村が“奪還”された夜、僕がこの集団に加わることになったあの夜のことを、まだはっきり覚えてる。
あの日、火と血にまみれた村の中で、頼れる大人たちはみんな、何も言わずに横たわっていた。
僕の村の大人たちを殺したであろう、兵たちは、物品を見繕って、淡々と荷物をまとめ、立ち去ろうとしていた。
その時、真っ先に僕の頭に浮かんで、それから脳の中を埋め尽くした感情は、怒りではなくて、焦りだった。
このままじゃ、置いて行かれてしまう。大人も、頼れるものも何もいない、何者にもなれないこの静かなだけの村に。
置いて行かれてしまう。
それが本当に怖かった。
怖かった。
僕の口からこぼれ落ちたのは、力無い「まって」だった。
これが映画や漫画の世界なら、きっと、「待て」とか「なんで殺した?」とか「絶対仇をとってやる!」とか勇ましい、怒りのセリフであったはずだけど。
僕の口から出たのは、「まって」だった。
僕は子供らしく、子供の本能から、敵なのに、ひどいのに、それでも強そうな、ちょっと歳上なだけの、目の暗い少年兵たちにすがりついたんだ。
それから、今までいろんな村を“奪還”しに行ったけど、どの村の子供も、少年兵に「まって」と縋りつく。
ほとんどの子供が。
そして、そういう子供たちで、僕たちは数を増やしてきたのだった。
リーダーが、村に遺されて縋りついてきた子供たちに、対応している。
「ついてこい」そういう身振りで、新たな少年兵たちを増やしていく。
少年兵になった僕たちが、奪還した村の子供たちを救う方法は、これしかないから。
自分の仲間にしてしまう他に、僕たちが、大人に、世界に対して出来ることなんて、ないから。
僕たちは荷物をまとめ、「まって」と口に出した子供らしい仲間たちの数を数えて、点呼を取る。
そろそろ撤退の時間だ。
東の空が白み始めている。
僕たちは行軍を始める。
戦利品と新たな仲間を連れた、虚しい行軍を。
5/18/2025, 10:56:44 PM