2 「明日への光」
僕には「明日になれば」と言う癖があった。
便利な言葉だった。今日を片づけなくて済む。失敗も、決断も、すべて明日に送れる。
机の上には、未提出の書類。
携帯には、返していない連絡。
どれも致命傷ではない。ただ、少しずつ鈍らせていく。
ある日、父が倒れた。
病室は白く、時間だけがやけに正確だった。
医師は「もっと早ければ」と言わなかった。ただ淡々と説明した。それが一番残酷だった。
帰り道、夕焼けが街を照らしていた。
人々は立ち止まらない。光は進行方向にあるものだと、誰もが知っているからだ。
歩き出そうとして、やめた。
今日が、音を立てて崩れている気がした。
その瞬間、はっきり理解した。
明日の光とは希望ではない。
過ぎ去っていく今日を呑み込み、錆びつかせていく猛毒だ。
希望だと思っていたものは、実際には猶予だった。
猶予は行動を遅らせ、遅れは腐食を呼ぶ。
僕は携帯を取り出し、溜まっていた連絡に一つずつ返事をした。
完璧な言葉ではない。取り返しもつかない。
それでも、今日に触れたという感触だけが残った。
空はもう暗かった。
だが僕は知った。
光が消えたのではない。
光を追うのをやめただけだ。
12/15/2025, 2:12:05 PM