「行かないで」
玄関にかけていた手を掴まれる。
彼がこんなことをするなんて珍しい。
「どうしたの?」
そんな言葉をかける。
「今日は行かないで。」
彼は俯いたまま答える。
何か不安なことでもあるのだろうか。
こんなことは初めてなので、嬉しいよりも驚きが勝っている。
「理由、教えてくれない?」
彼は顔を上げた。
涙が浮かんでいた。
「嫌な予感がするんだ。もしかしたら、命に関わることかもしれない。」
彼はとうとう泣き出してしまった。
「怖い夢でも見たの?」
彼は顔を横に振る。
「本当に今日はダメなんだ。行っちゃだめ。行かないで。」
いつもの彼からは想像できないくらい必死だ。
今日は重要なことは無かったので、有給を取ることにした。
仕事を休むと言ったら、彼は安心したのかその場で寝てしまった。
仕方ない、寝室に運んであげよう。
今日は嫌な夢を見た。
俺の恋人が死ぬ夢だ。
夢を見て不安にならないわけがない。
だが、彼に心配させたくない。
だから、今日もいつものように彼を見送った。
彼は次の日になっても帰ってこなかった。
連絡もつかない。
警察に連絡し、俺も仕事場やよく彼と行った場所を周った。
それでも見つからなかった。
という夢を見た。
が、また、彼がいなくなる夢を見た。
毎回原因が異っていた。
だから今日は伝える。
彼がいなくならないように。
「行かないで」
10/24/2024, 4:32:31 PM