──どうして?
炎の中、涙も出なかった。
お父さんとお母さんは、目の前でころされてしまった。こわい顔をした男の人たちが、わたしから全部うばっていった。
──どうして?
「来い」
その中の一人が、わたしを抱っこして逃げ出した。一緒にしぬこともできないの?
──どうして?
「今日からお前は俺の弟子だ」
お父さんとお母さんをころした人が師匠になった。
追ってきたこわい人たちを、みんなみんなころしてしまった。
わたしを生かして、何になるの?
怒りも悲しみも、全部炎の中に置いてきたんだよ。今さら何の価値があるの?
強く抱きしめられて、鼓動を感じる。
ドクン、ドクンと。生きてる音がする。それだけで安心するなんて。
雨の日も雪の日も、師匠は幼いわたしを守るように腕に抱いた。
きっと、わたしに師匠はころせない。そうして空っぽになったわたしの中に、何かが満ちていく……
「俺は、誰も愛さない──」
言葉とは裏腹にわたしを包む優しい腕。
どうしてすがってしまうのだろう。あんなに憎くてこわかったのに、師匠が触れると溶けてしまう。
もうこの人なしでは生きていけないのだと、わかってしまった。
そう、降り積もる雪のような愛に、わたしは溺れてしまったんだ。
【どうして】
1/14/2024, 3:07:10 PM