【奇跡をもう一度】
奇跡とは一度きりだから奇跡なのだと、君は言った。愛しい人の半死半生の肢体を胸にかき抱きながら。
「確かに普通はそうだろうね」
神というものは気まぐれで奔放だ。たまたま願いが耳に届けば叶えてやることもある、その程度の戯れにしか人間に関わることなどない。彼は既に一度、その命を奇跡により救われている。今度は自分の愛しい人も、だなんてあまりに強欲にも程があるだろう。故にこそ、彼は奇跡を願わない。愛する人の命が失われていくのを涙に潤んだ眼差しで見つめるばかり。
「……でも、君は普通じゃないだろう? 心から奇跡を願いなさい。じゃないと起きる奇跡も起こらない」
躊躇うように君は視線を揺らがせる。真摯な願いが僕のうちを満たした。うん、これなら十分な霊力だ。
君の願いはあまりに無垢で膨大だ。そうして君には僕がいる。人間を愛し、慈しみ、そうして神々の世を追放された、神の末席たるこの僕が。
君の腕の中に眠る蒼白な人の頬へと手を翳した。――さあ、奇跡をもう一度起こそうか。君が望むなら何度だって、僕は奇跡を叶えてみせよう。
10/2/2023, 9:51:28 PM