『どうして』
「どうしてあんな事をしたんだ?」
放課後の職員室で、先生が僕に……今思えば優しく問いかける。
「…………」
当時の僕は何も言えない、何か言わなくちゃと思っているのに、体が震えて涙がでてくるばかりだった。
「先生は怒っている訳じゃないぞ?大丈夫だから、この話はまた今度〇〇が落ち着いた時にしようか」
先生はどこまでも優しかった、だから何とか僕も話す事が出来たんだ。
「……ごめッ、ごめんな……さい、ごめんなさい」
引き攣ってしまった声で何とか発した言葉は、とてもか細いものだった。
「謝る必要は無い、わざとしたわけじゃないんだろう?先生はどうして〇〇があんな事をしたのか理由が知りたいんだ」
先生も本当は分かっていたのかもしれない、あれをしたのが本当は僕ではない事を。
僕があの子を庇っている事を。
「…………」
だから黙りこくる僕を見て、優しさの混じった……それでいて困った顔をしていたのだろう。
しかし今度こそ僕は何も言えなかった。
どうしてあの子があんな事をしてしまったのかなんて、僕にも分からない。
だからといってあれをした犯人を言ってしまえば、あの子が怒られてしまう。
いやそれよりも、告げ口をした事によってあの子に嫌われるのが怖かっただけなのかもしれない。
「……言えないか?」
「…………」
無言でコクリと頷く。
「そうか……なら仕方ない!〇〇も疲れただろう、もう帰って大丈夫だぞ」
無言でコクリと頷き背を向けて、
「今日の事はそんなに思い詰めなくても大丈夫だからな、気を付けて帰るんだぞー」
無言でコクリと頷き職員室を後にした。
僕は自分が情けなかった。
適当に理由をでっち上げて話せば、それだけであの子を完璧に庇えたはずだった。
なのにそれすらしないで、ただ黙りこくって泣いていただけ。
結局のところ先生には分かって欲しかったのだろう、本当は僕がやったんじゃないって。
あぁ、情けない。
情けない。
涙が……止まらない。
僕の中の僕が言う。
『お前は悪者にすらなりきれないのか』
そうして僕を見下ろして……ただひたすらに哀れんだんだ。
1/14/2023, 1:25:37 PM