詠み人知らず

Open App

彼女は私よりも2ヶ月早く生まれた子だった。

私とは何もかも違っていて
恵まれた容姿に利発な性格
運動もできて保育園の中でも一番足が速かった。
お喋りが上手くて、よく笑い
園児ながら誰からも好かれる魔性の色香のようなものがあった。

「●●ちゃんは××くんのことが好きなんだって!」
ある日彼女は同じクラスの園児たち全員の前で
私の秘密を高らかに暴露した
私の制止などお構いなしに
何度も何度も叫び回った
性愛に絡め取られる一歩手前の
柔らかな思慕の心を
まるで当然の権利のように
満面の笑顔でめちゃくちゃに踏み躙ったのだ

それから少しも経たないうち
小学校に上がったばかりの頃
ふたり、子供部屋で遊んでいたら
不意に彼女は
私を押し倒し
手を取り足を絡め
全身を擦り合わせてくることがあった
これがどういう行為なのか
当時も今も私にはわからない
そういえば初めて唇を合わせた相手も彼女だった

中学、高校は付き合う友人や部活が違い
私は彼女と疎遠になった
彼女は
癌で余命幾許もない母親の為
25歳で結婚し
すぐに子供を作って
安定した生活を送っている
今も私の知らない所で暮らしている

ところで明日はハロウィンなので
何かお菓子を作ろうと思う
アップルパイはどうだろうか
林檎は丁寧に切り刻んで
元の味などわからないくらい
砂糖で煮詰めてしまおう
こんな苦い思い出話も
あなたなら
優しい瞳で静かに聞いてくれるような気がする

アップルパイは残さず食べてしまってください。

◼️初恋の日

5/8/2024, 9:57:06 AM