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 手に取り選ぶのは出先にちなんだモチーフや花が印刷された便箋。たまに事前に用意することもあるがよっぽど特別な時だけで基本は現地調達だ。今回訪れた店に置いてあった便箋は無地で何の印刷もなかった。観光地でも商業が盛んでもないから無理もなく。物珍しく店主に見られながらそれを買い上げた。
 
 何も描かれていないシンプルな便箋は久々だ。といってもモチーフが入ったタイプだってワンポイント程度。話題の提供に役立っていたが、一ヶ所に印刷されているかいないかの違いで便箋が大分広く感じる。故郷の雪原みたいにまっさらだ。
 
 ここは町と離れているから、きらびやかな場所も有名な場所もないが、食事処で出される料理はどこか温かみのある味で君が気に入りそうだ。俺が考えたこの場所のモチーフを同封しようか。書くことを頭のなかで整理して書き出しの文を考える。

 一目で俺と分かる封蝋が付くから差出人が誰なのか困ることはない。ある程度文はまとまった。ペン先を便箋に置けば『無色の世界』にインクが染み込んで、新雪に足を踏み入れる心地だった。


4/18/2023, 10:30:45 PM