正確な時刻までは分からないけれど、いまはたぶんもう真夜中。辺りは自分の足音以外、物音ひとつしない。しんっと静まり返った夜の住宅街をひとり気ままにただ歩く。
半袖のシャツに薄手のカーディガンを羽織っただけの服装に、ときおり通る夜風が当たるとひんやりとする。でも寒いほどの冷たさではなくて、どちらかというと浮き足立つ心を幾分か冷ましてくれる涼しさが心地良かった。
私はつい緩んでしまいそうになる顔を何とか抑える。自分だけしかいないこの空間が、想像するだけで楽しくて、嬉しくて仕方がない。しかも今夜はちょうどよく満月だ。闇色の空を仰げば夜道を照らす丸い黄金色が、私の世界に美しく映える。
『小さい頃から夢見てたの』
まさかこんな形で夢が実現するなんて。
『この街にいる住人が、私以外みんな消えちゃえばいいのに、って』
そうすれば私は自由になれる、そう思い願い続けてきた。
「夢って信じ続ければ叶うものなのね・・・・・・」
恍惚とした私の呟きは、この深い闇夜の中にだけ響き、その後は溶け込むようにして消えていった。
【真夜中】
5/17/2023, 11:25:04 PM