柔らかい雨が、空から降ってくる。
きつねのよめいりだあ。
さすがは、しずくちゃん、雨、外さないなぁ。
窓の外を見ながら、深雪はくすっと笑ってしまう。
「みーゆき、何見てんの」
後ろから声をかけられた。振り向くと、重い前髪にメガネ、そばかすがボーイッシュな魅力を醸している晴子がやってくる。
今日はベストに蝶ネクタイ、裾広なパンタロンといったよそ行きのおしゃれ。
「ほら、お天気なのに雨降ってきたの。これって、きつねのよめいりっていうんでしよう?」
「お、よく知ってるな、深雪」
えらいえらいと頭を掻いぐる。
に、してもと苦い顔になって、
「さすがは雫だな。こんな日でもきっちり降らせるとはね」
「晴れ女の晴子ちゃんが来てるのにね」
「ばーか、あたしが来てるからこれぐらいの雨で済んでるんだよ。来てなきゃ土砂降りだ」
断言する。深雪はへえええと感心した様子。
「さあ、そろそろ行こう。深雪、今日大役あるんだろ」
「うん、もードッキドキだよ! 晴ちゃん、深雪おかしくない? 髪、きれい?」
「大丈夫! 美容室でセットしてもらったんだろ? お姫様みたいにかわいいよ」
「えへへー」
手放しで褒められて深雪は喜ぶ。
しずくちゃんのお友達だっていう晴ちゃんをしようかいされてから、仲良くしてるけど。今日はほんとに心強い。
深雪は晴子に言った。
「じゃあ、行ってくる。見ててね、ちゃんとおつとめ、するからね」
「おー、行っといで。席から見てるよん」
ひらひらと晴ちゃんは手を振って、式場へ向かった。
ようし!
深雪は花嫁さんのヒカエシツに向かう。そこには真っ白なウエディングドレスを身に付けたしずくちゃんが待っているんだ。
うちのパパと、並んでバージンロードっていう赤いじゆうたんを敷いたところを一緒に歩いていく。そうして結婚式が始まるんだって。
深雪は二人のあいだで手をつないで一緒に歩くの。パパとしずくちゃんのたっての希望でね。
ドキドキするなぁ。たくさんのお客さんで、式場ザワザワしてる。
「しずくちゃーん、そろそろ行くよ?」
ヒカエシツのドアを開けると、そこにそれはそれはきれいな花嫁さんがいた。
「深雪ちゃん」
夢みたいに美しいしずくちゃんは、にっこりと笑った。
「時間ね。パパは?」
「もうドアの前で準備してる。めちゃくちゃ緊張してるよ」
「私もドキドキして心臓が破けそう」
「大丈夫、深雪がついてるよ」
「ありがとう」
美しい笑顔を見せるしずくちゃんーー今日、深雪のママになる人に、あのね、と深雪はヒソヒソ話を教えてあげた。
しずくちゃんはアメフラシでいつも大雨を降らせるけど、今日は特にパパが大雨だよ。男なのに、おじさんなのにきっと大泣きしちゃうよ嬉しくて。
そう言って深雪は、花嫁さんの手をきゅっと握った。
#通り雨 完
「柔らかな雨」
ご愛読ありがとうございました。
11/6/2024, 10:57:30 AM