桜
ピンク色で可愛いね。
まだまだ生まれてまもないこの幼児はまだ届くはずのない腕を目一杯伸ばして小さな手のひらを天に向かって伸ばした。
おさなご特有のふわふわしたいのちを好ましく思う。
人間というのは本当に摩訶不思議だ。
幼ければこのように純粋に美しさを言葉にする事に憚らないのに年輪を重ねれば重ねるほどやれ人の生き血を吸って色を染めるだの、逢瀬の待合場にするだの、酒席の寄り合い場にされた時の吐き散らかされた行き場のないごもくたの異臭には辟易していた。
失礼な話だ。
この穢れなき心を何処に置き忘れるのか。
お前はそうなってくれるなよ。
桜の君は愛しそうに、そして少し諦めたように笑ってまだまだ小さな手を握り返した。
『お母さん、貰ったよ』
小さな我が子が突然嬉しそうに笑う。
広げた手のひらには薄紅に染まる小さな花びらが。
『良かったね、桜の精さんにありがとうだね。』
しゃがみ込んで目を合わせるとパチクリとした大きな目が桜を見上げた。まるでそこに誰か居るかのようにしっかりと見据えた子はそこに居る誰かに向かってありがとう、と返す。
もしかしたら本当に居るのかなぁ。
子供って不思議。小さい時は見えたものが大きくなったらどうして見えなくなってしまうんだろう。
大事なものを抱えるみたいに両手で大切に花びらを抱える小さな手を見ながら羨ましいような、懐かしいような気持ちで桜を見上げた。
4/4/2025, 10:59:40 PM