MWの二次創作

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秋風🍂



 朝晩の冷え込みが激しくなってきた。特に、日が落ちる頃の秋風が辛い。とはいえ、スーツを着ても苦にならない季節になったともいえるだろう。
 最近のホストはスーツではない人も増えたが、オフとオンのメリハリをつけたくて、夏の汗ジミを気にしながらもずっとスーツを着ているのだ。シンプルにジャケットまで着ると暑くて倒れそうでもあった。
「あれ、ハヤトくん。もうコート着てるの」
「はい。冷え性で。もうすでに家では暖房もつけてます」
 行きつけのバーの店員、ハヤトの出勤スタイルを見て驚いた。ロングコートに、その中にはセーターまで着込んでいる。
「今日は十一月並み? の気温とかって言ってましたし、カナトもコートくらいは着てるんじゃないんですか」
 カウンター内に入り、端の事務所の入り口との境で服を脱ぎながら、ハヤトが話しかけてくる。僕の後ろのボックス席からセクシーコールが聞こえた。ヒートテックにセクシーも何も無い気がするんだけど。
「いや。普通にスーツのジャケットだけ。あ、でも見て。今日はジレ着てるんだ」
 椅子から軽く腰を浮かせて格好を見せる。
「ジレ……?」
 ハヤトは目を細め、九十度に達しそうな程首を傾げた。
「ベストのことだよ」
「へえ。服なのに、そんなオシャレな言い方があるんですね」
 流行に疎いハヤトらしい。からかって笑うと、完全に事務所のドアを閉められた。
「あらら。怒らしちゃったわね」
「乙女心は複雑よ〜」
 早く出勤してほしい。ボックス席にいて囃し立ててくる彼らは、近くのニューハーフバーで働いている従業員たちだ。マスターがずっと捕まっている。
「おじ様的には公認なの? 甥っ子の彼氏のこと」
「もちろん。二人だけが幸せならいいんだよ」
 振り返ってボックス席を見ると、ほろ酔いになったマスターがのほほんと笑っている。
「喧嘩してるのに?」
「いやいや。恥ずかしいだけじゃないかな」
 その時、がちゃりと事務所のドアが開く音がした。顔を向けて、驚いた。
「カナト。どう……ですか?」
 耳を赤く染め、こちらを見ようとしないハヤトがスーツを着ている。落ち着いた無地の黒いスーツで、パキッとした白いシャツの袖を捲り、黒いジレを着ている。
「それ」
「いつもスーツを着ているカナトがカッコイイなって思って……白いスーツは勇気がなくって……」
「めちゃくちゃ似合ってる」
 心からの感想が溢れた。ハヤトは顔中が赤くなった。
 こちらも釣られて体温が上がる。
「ねえ、ハヤトそれ、ハイブランドのロゴ入ってない?」
 世界的に有名なブランドのロゴを見つけて指摘すると、ハヤトは「そうなの?」と目を丸くした。
「これ、叔父のお下がりで」
「昔バブルの頃に奮発して買ったんだ。サイズアウトしたけど捨てるのは忍びなくて。ハヤトがスーツを着たいって言ってくれて良かったよ」
「なんで言ってくれなかったの……! 汚せないじゃん」
 軽い言い争いをする二人を横目に、ちょっと休憩、と店を出た。雑居ビル内の廊下とはいえ、暖房のないそこは、開け放たれた突き当たりの窓から風が吹き込んでくる。柔らかく包み込むような冷たい風に当たっても、火照った体は冷えない。
「実質お揃いじゃん……!」
 ハヤトは気付いていない。僕が着ているスーツと、同じブランドだということに。

10/23/2025, 3:50:46 AM