星乃 砂

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【月に願いを】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
           続編

登場人物
 鬼龍院 加寿磨
 (きりゅういん かずま)
 金城 小夜子
 (きんじょう さよこ)

「お母さん、お願いがあります」
加寿磨は大声で叫んでいた。
母はビックリして、急いで2階に上がってきた。
「どうしたの、かず.....ま、貴方立ってる。立てたのね」
「母さん、事故を起こした人の名前を教えて下さい」
「今更聞いてどうするの?もう済んだことよ」
「ボクは間違っていました。傷付いたのはボクだけじゃなかったんです」
「小夜子さんの事かい?」
「ボクは彼女に合わなければいけない」
「記憶が戻ったのですか?」
「残念ながら、記憶は戻っていません」
「なら、なぜ?」
「ボク以上に彼女が傷付いている事が分かったからです」
「分かったわ。彼女の名前は金城小夜子さんよ」
「彼女が引っ越した住所も分かりますか?」
「引っ越したの?それは分からないわ」
「そうですか、残念です。でもなんとかして調べなければ」
「それより、立てたんだね。歩けるのですか?」
ボクは一歩踏み出してみた。
体重を支えることが出来ず、そのまま崩れ落ちた。
「無理をしないで、少しずつでいいのよ。お医者の先生に連絡しておきますね」
ボクは心に誓った。
必ず、歩いてあの子に会いに行く。

それから、リハビリが始まった。何年も車椅子だったのだ、想像以上の辛く苦しい日々が続いた。
加寿磨は ‘あの子に会う’ その一心で耐えた。これぐらい彼女の苦しみに比べれば何でもない。
一月程が経ち、松葉杖を使って歩ける様になったが、まだ長くは歩けない。もっと頑張らないと。
あの子の住所はまだ分からない。
ボクは何度も何度も手紙を読み返し、ついに糸口を見つけた。
消印だ!
これで大体の場所が絞り込める。
歩行も松葉杖1本で、歩けるようになった。

いよいよ明日、1泊2日の予定で出発する。
ひとりで行くつもりだったが、母がどうしても付いて行くと言うのでふたり旅となった。
ボクは月に願いを込めた。
〈どうかあの子に会えます様に〉月は無言で微笑んでいる様に見えた。〈大丈夫大丈夫〉
だが、そう甘くは行かなかった。
役所、郵便局、中学校、どこも〈個人情報は答えられない〉と言われてしまった。
中学校の校門で探すにしても、ボクはあの子の顔を知らない。
最後は生徒に聞いてみたが〈金城なんて子はいない〉と言われた。
もはやお手上げ万事休すである。

自宅に戻り、抜け殻になった。
あれだけ頑張っていたリハビリも休んで3日になる。
途方に暮れ、気が付くとあの子の通っていた中学校に来ていた。
雨が降っている事にも気づかずにいた。
「初めてあの子をみたのも、こんな雨だったな」
「もしかしてカズ君?」
女の子の声がしたので、振り返ってみた。
「カズ君だよね、鬼龍院加寿磨君でしょ?」
「ボクの事知ってるの?」
「やっぱり、カズ君なのね、歩けるようになったんだね。よかったきっと小夜子も喜ぶよ」
「き、君は金城小夜子さんの友達なのかい?」
「カズ君、記憶はまだ戻ってないの?私と小夜子とカズ君は同じ幼稚園だったんだよ」
「そうだったの、... もしかして君は金城さんの引っ越し先を知っているかい?」
「知っていのわよ」
その時、雨が止み日が差してきた。

           つづく

5/27/2024, 11:23:49 AM