かたいなか

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「ちょっと、気付いたことがあんの」
アプリから通知される、3月最後の題目である。
「お題見て、数時間粘ってなんとか一筆書いて、寝て。寝た後の方が良いネタ浮かんできたりすんの」
空腹ゆえに早めの朝食をとるか、いっそ二度寝による時刻スキップを使用した方が幸せになれるのか。二択の真ん中で、某所在住物書きが、葛藤に揺れている。

「意外と睡眠って大事説……?」
では、最初に粘る数時間の価値はどの程度だろう。
物書きは首を傾け、睡魔に耐えきれず毛布に戻る。

――――――

年度末。3月末日。明日から4月。スケジュールの中では、今日はたしかに大きな区切り線の筈だけど、
別に、これといった大きいイベントは無いし、仕事はいつも通りだし、
強いて言うなら私の部署のオツボネ様、尾壺根係長が来週から別部署に異動するにあたって、
朝挨拶のチョコ貰って、仕事前に係長の嘘くさい涙と心にも無い綺麗事な小演説があって、部署内の半数以上が「正直どうでもいい」の虚ろ目だっただけ。
至って、いつも通りの午前中。
年度最後の昼休憩も、変わらずいつも通り。先輩と一緒に弁当広げて突っついて、オツボネのチョコを食べるだけだった。

「まぁ、まぁ。それなりにおいしい」
「素材が素材で、パティシエがパティシエだからな」
「良いモノ使ってるの?値段いくら?」
「その量で1箱6000円」
「金運だ?!」

3月31日の9月生まれな乙女座は、何気ないことが福を呼び、ペールパープルの花で金運アップ。
朝の占いの突然の伏線回収に驚愕しつつ、金額を知ってしまったので、人生で初めてオツボネ係長に感謝しながら、スマホで箱を撮る。先輩がくれたもう一箱は手を付けず自宅にお持ち帰りすることにした。

「ヤバい。ヤバい」
写真撮って、最後の1粒を拝んで、舌にのせる。
「私、オツボネで幸せになってる」
味の好み云々じゃない。多分、金額と情報を食べてるんだと思う。
「それは、良かった……のか?」
弁当を片付ける先輩はそんな私を見て、まぁ、相変わらずで通常通りだった。
言葉の最後が濁ってるのは、オツボネが名前通りのオツボネ様で、私にもウチの新人ちゃんにも悪いことばっかりしてきたからだろう。
でも許す。一部許す。最大4分の1程度なら許す。
サンキュー1箱6000円。

「オツボネ毎月チョコ差し入れしてくれたら、私もっと幸せになれるし、もっと許せる気がする」
「役職無しの事実上左遷だ。金が続かないだろうさ」
「でも私幸せになれる気がする」
今年度最高額のデザートを、そこそこ楽しんで先輩とダベって、年度最後の昼休憩はそれで終わった。

3/31/2023, 9:18:34 PM