このままじゃいけないんだって、頭の中では分かっている。でも行動に移せなくて、結局今日も変わらずその場凌ぎみたいな生き方をしている。こんなぬるま湯の中にいるような日々を過ごしていて無駄じゃないのか?答えはYESだ。分かっている。それでも僕は動けない。しょせんただの臆病者なのだ。
これでは明日も明後日も、下手したら数十年先も今と変わらずの日々になるんだろうな。
「じゃ、行動にうつせば?」
「無茶言うなよ」
ソファに寝そべりながら彼女が言う。人の家だというのに随分と寛いでいるな。まぁ、今に始まったことじゃないからいいけど。でもそんな簡単に言うなよ。それが出来てりゃこんなにも思い悩んだりしないって。
「だってそれって、理由つけて逃げてるだけでしょユウちゃんは」
のほほんとしながら彼女は口を開く。ただし、言ってることはかなり攻撃的な言葉だけど。知らず知らずのうちに、その真っ当な発言が僕の胸をちくちく刺している。
「いけないと思ってるなら、自分の直感を信じてみたらいいんじゃなくて?」
「そりゃそうだけど」
「けど?」
「僕1人の問題じゃないだろ。社会の中で生きるって、集団行動を重んじないといけないんだ」
決してそんなことはない。まだ学生時分の彼女に向けた言い逃れだ。言い逃れてるという時点で、はなから僕は自信がないのだ。怖気づいている。社会というワードを盾にして現状から目を逸らそうとしている。勿論、その狡さも自覚している。
「でもさぁ、そんなんじゃユウちゃんきっと明日もそんな顔してるよ。それって、つまんなくない?」
「つまんない、とか、そーゆう問題じゃないんだよ」
「じゃあ、どーゆう問題?」
彼女はむくりと体を起こした。正面から見つめられて虚をつかれる。たかが2、3歳年が違うだけでも、彼女のほうがずっと“自分”を持っている。それも充分分かっている。何の行動も起こさないで文句だけ垂らす僕はかなりの小心者だ。やりもしないのに諦めて、悲観するなんておかしい話なんだ。
「何が足りないの?勇気?自信?決断力?」
「……全部だよ」
「全部かぁ」
彼女が少し笑って仰向く。これじゃ、どっちが歳上なのか分からないな。分かってるさ。今挙げられた3つとも、自分で手に入れなきゃ意味ないんだ。誰かから与えられた勇気や自信を振りかざしても自分のためにはならない。
「自信とか、はい、って言って簡単にあげられないけどさぁ」
おもむろに、彼女は立ち上がると僕の目の前までやって来た。
「“味方”なら、すぐあげられるよ」
はい、と。言いながら自らの右手を僕に向かって差し出す。すぐに言葉が出なかった。
「あたし、社会がどうとか分かんないし集団行動とかイミフだけど。けどユウちゃんが何か動き出そうとするなら全力で応援する。何があってもユウちゃんのサポーターする」
にっこりと、何の混じり気のない笑顔を見せながら彼女が言った。じわじわと、僕の中の奥深くに浸透してゆくのが分かる。そっか、そうだよな。1人じゃないって、こういうことなんだ。あんなに思い悩み悲観していたのが途端にバカらしくなってくる。明日もこんな顔見せたら、やっぱりお前は心配するよな。
「ごめん。……ありがとな」
「明日は笑えそ?」
「ああ」
大丈夫だ。明日は、きっと。それを全身で伝えるために、彼女をぎゅっと抱きしめた。
10/1/2023, 5:15:11 AM