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あぁ、暑い。
なんて思いながら今日も慣れ親しんだ道を歩いていく。
今日は手土産代わりのお裾分けのスイカを持ってきた。

すれ違う人も半袖やタンクトップなど涼し気な姿だ。
なんと言ったか、最近は手持ちの小型の扇風機や首に冷たい首輪みたいなのを着けている人が多い。
そうか、いまはもう団扇や扇子では間に合わないのか……
あの人はきっと知らないだろうから、今日の話題にしてみよう。

ちりりん…りん

「やっぱりいい音ですねぇ」

いつもの縁側が見えてきた。
そして最近あの人が吊るしてくれた小さな夏が涼しげな音で迎えてくれる。

「今日もお邪魔しますね」

一応、声は掛けるが縁側は自由に使えと言われているので申し訳程度だ。

ちりん

家主の代わりに答えてくれたかのようになる夏の音に笑みがこぼれる。
いつものように縁側に座り、通り過ぎる人を見るとはなしに見る。
聞いたことはないが、多分腐れ縁のあの人は自分が好き好んでここから人を眺めていると思っているだろう。
人間観察が好きというよりはこの縁側から見える風景なら何でもいいのだ。

「来てたのか」
「えぇ。あ、これお裾分けです」

いつの間に隣にいたのか腐れ縁であり、この縁側のある家の家主に声をかけられた。付き合いは長いが本当に静かな人だと思う。

「スイカ。ありがとな」
「いえいえ」

嬉しそうな様子にこちらも嬉しくなる。
スイカをしまいにまた奥に引っ込んだ相手を見送る。

「ラムネ切らしていたんだ」
「あなたの家の麦茶好きですよ」

戻ってきた相手に氷が入ったグラスに入れられた麦茶を渡される。
いつも出されるラムネが自分のために用意してくれてるものだと知ったのは意外にも最近だ。

「あ、そういえばここに来る前に見掛けたんですが」

腐れ縁とは言いつつお互いにあまり干渉しない性格だったから、一緒にいても居るだけだった。
こうして話すようになったのはいつからだったろう。

そんな事を考えながら先程話そうと思った事を話す。
話していたら空が夕焼けに染まってきた。

「そろそろかえりますね」
「次はラムネ買っておく。今日はこれで」

差し出されたのはラムネ味のアイス。
半袖が似合う季節にまた食べたいと思ってたモノだ。

有り難く受け取り、食べながら帰路につく。

半袖が似合う季節、ラムネ味のアイス。
あの人が炭酸が苦手だと知ってから1年が経っていた。

7/25/2025, 2:48:43 PM