ほろ

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先生、これ返す。

冬休み明け、生徒がモコモコの手袋を差し出してきた。冬休み前に生徒に奪われていた手袋だった。
いや、お前もらうねって言ってたじゃん。手袋を受け取りながら、生徒を見る。正直、返す気があったことにびっくりだ。
手袋を渡して用は終わりかと思ったが、生徒はなかなか俺の前からいなくならない。
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「ううん、別に」
「じゃあ早く教室に行けよ。遅れるぞ」
「うん」
頷くが、生徒はまだ動かない。
「用があるんだろ」
もう一度言えば、生徒はポケットから何かを引っ張り出して、俺の右手に握らせた。
「これ」
「ブレスレット?」
「プレゼント」
「……俺、お前に誕生日言ったっけ」
今日は俺の誕生日だった。だけど、コイツの前で誕生日の話をした覚えはない。
生徒は、知り合いにちょっと、とだけ呟いた。知り合いって、と聞く前に、右手を包み込んで俺をジッと見てくる。
「おめでと、先生。毎日それ付けてね」
「あー……うん、善処はする」
へへ。生徒はようやく満足したらしく、手を離して教室に走っていった。
手の中に手袋とブレスレットが残る。俺は、迷わず両方ともポケットに突っ込んだ。

この世界は、お前が思っているより優しくない。俺にできるのは、特別扱いをしないでただの生徒として扱うことだけだ。
ごめんな、と口の中で言う。恐らく毎日は付けられないだろうブレスレットが、ちり、と音を立てた。

1/15/2024, 11:15:59 AM