白眼野 りゅー

Open App

「ただ君だけがいてくれればいいよ、私の人生」

 これ以上に胡散臭いセリフが、他にあるだろうか。


【ただ君だけがいれば】


「本当?」

 と、当然の流れとして疑いの目を向ける僕に、君は心外だとばかりに頬を膨らませる。

「本当だよ。君さえいてくれれば私は電車で毎回席に座れなくてもいいし、一生四つ葉のクローバーが見つけられなくてもいいし、食後のデザートだって食べられなくていい」
「小さいなあ影響が」

 絶対そんなスケールの話じゃないだろ。

「『君だけでいい』って言ったら普通、食事も水も酸素も、命すらもいらないって状態を想像しない?」
「でも、君は私にそんな思いをさせないでしょう?」
「まあそうだけどさあ……」

 君の食事や水がなければ僕のを分けてあげたいし、宇宙空間で君の酸素がなくなったら迷わず僕の酸素ボンベを渡すし、君の命が危なければ、僕が命をなげうってでもその危機を遠ざけるけどさ。

「ね、わかったでしょ? 私は君がいる限り生きていけるから、君だけがいればいいの」
「なんか、ズルくない……? 結局それ、僕に甘えてるだけっていうかさあ……」
「そうだよ? だから、君さえいれば、私には甘える相手も担保されるってことだ」
「ううん……」

 納得いかないけどもはや返す言葉もないという、いっそスカッと論破された方がマシという心境で唸る僕に、ふいに表情を引き締めた君が

「だから、いなくならないでね」

 と、言い放った。

「たとえ私のためでも、君がいなくなったら、私は食事も水も酸素も命も失うのと同じことなんだから」

 僕の食事で水で酸素で命の君は、僕の手を優しく握って言った。

5/12/2025, 1:01:15 PM