「私は夜が好きなんだ」
彼女はそう言った。真っ暗な部屋の中、僕たちは身体を寄せ合って寝転がっている。
「どうして?」
「だって、この時間だけは、みんなと同じ景色を見られるから」
僕は彼女の手をギュッと握る。
彼女は色が分からない世界で生きている。黒と白の二色で構成されたモノクロの世界。
「なんかね、自分だけ別の世界にいるような気持ちになるの。みんなはそばにいるはずなのに、孤独を感じる」
彼女は僕の手をギュッと握り返した。
「寂しいし、悲しい」
それが彼女の気持ちだった。
「なら、明日から僕も同じ景色を見ることにするよ。そうすれば、君は一人にならないだろ」
「え……?」
「また明日、おやすみ」
そう言ってそのまま眠りについた。
そして次の日の朝。
僕は、レンズをマジックで黒く塗りつぶしたサングラスをかけた。
「何してるの?」と彼女は聞いた。
「僕も今、色が分からない。これでもう一人じゃないね」
「……バカじゃん」
彼女はそう言って笑った。
僕はこれからも彼女のそばで、彼女の人生を彩りたいと思う。
お題:モノクロ
9/29/2025, 5:11:17 PM