曖昧よもぎ(あまいよもぎ)

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スケッチをしようと思ったから、家の近くの公園に立ち寄った。そこを選んだのは、なんとなく木漏れ日が幻想的だったからだ。他にはない魅力を感じたんだ。
少し進み、このあたりだろうか、という場所に見当をつけて画材を広げる。そして描き始めようとしたとき、「あ」と思わず声を出した。
揺れる木陰に、美しい少女の姿があったからだ。
僕は彼女を描くことに決めた。人を描くのは慣れていなかったけれど、なんだか彼女もこの公園の一部のように思えた。そのぐらい調和していて、今、なくてはならない妖精みたいな存在だった。
夢我夢中で筆を走らせた。時間を忘れ、没頭した。ただこの美しい風景のすべてを描きたい欲求に駆られていた。何色も絵の具を塗り重ね、試行錯誤しながら光を映し取る。その手作業に魅入られたのは、何年も前の話だ。

あらかた満足した頃、少女は居なくなっていた。出来上がった絵を見せたかったのに、と少し残念な気持ちを、絵の中の彼女に託す。そのとき、口元に微笑を浮かべる少女の左脚が、不自然に描かれていないことに気が付いた。これは、僕のミスだろうか。それとも……


十六作目「揺れる木陰」
曖昧も絵を描くという行為に魅せられているとおもう。いつか生身の人間を描きたい気もあるから、これを書いたのかもしれない。

7/17/2025, 10:17:56 AM