【街へ】
たまには筆を取ろうと思ったんですよ。だらだら話すのもいかがかと思いますけどねえ。人にはやはり自己顕示欲というものがあって、自語りするのは気持ちが良いものです。どうしてそういう生命維持に関係ない愚かなサガが備わって人間が出来てしまったのか、不思議ですね。
いつだったでしょうか。あれは秋の目前に迫った夏のことだったような気もします。なんだかどうしようもなくフラストレーションが溜まって、わたしは深夜2時に家を飛び出しました。毛玉だらけのパジャマでイヤホンをつけて、スマホ片手に、靴を履かずに。夜の静けさと冷たさが私を癒します。足裏から伝わる、普段は知りえない凹凸が新たな刺激を私に与えます。粘度の高い汚れた思考から、淀み落ちていく感情から解放されていくのを感じました。
何もかもから離れたくて、私は川のある方へと歩を進めていきます。足裏に感じ取られる刺激が、押し込められたコンクリートから土道に変わって、またコンクリートに変わって……。しばらくして、私は川辺に辿り着きました。思っていたより街に取り込まれていたそこは、わずかな街灯に照らされて水面をきらめかせています。案外明るいじゃん、なんて思いながらも、心が洗われていくのを感じました。
本当は川辺まで降りたかったのですが、高く草の生い茂ったそこに素足で降りる気にはなれません。ガラス片などあったら、私はナメクジのように帰り道を示していくことになってしまいますし、虫嫌いの私は生で彼らに触れるなんて言語道断でありましたから。
帰り際にまるまると太った野良猫と戯れて、自宅へと辿り着きました。特になにかをしたわけでもないのですが、家を出る前のどうしようもなく落ち込んだ気持ちからはとっくに解放されていて、健やかに眠りにつくことができました。
街から離れようとして、結局街へ歩いただけの話。意味はなくとも、ひとさじの非日常の体験と夜の雰囲気が、私を励ましてくれた思い出です。落ち込むとその日のことを思い出して、また深夜徘徊に勤しみたくなるのですが、近頃はめっきり寒くなっていて断念してばかりなので、早く暖かくなってほしいですね。
また春を待つ理由がひとつ増えました。
1/29/2026, 7:52:26 AM