私は、人間として、この社会に踏み入った。
貴方は、妖精として、この社会に踏み入った。
私は、偽りの名で、偽りの姿でステージに立っている。
貴方は、自分の名で、そのままの姿でステージに立っている。
私は、歌に妖力が多く宿っていることを、隠している。
貴方は、歌に魔力があまり宿っていないことを、公表している。
「Ayaneさんは強い人なんですよ。心ない言葉や強い言葉を言われても、上手く受け流して、全く傷つかないんです。私はまだそれが出来なくて、今でも落ち込んじゃった時は、いっつもAyaneさんに励ましてもらっているんです」
MCからの問いかけに、貴方はそう答えた。
「妖精っていうと、こう…概念を司っているようなイメージがあるじゃないですか。私もそのイメージを持ってて、人間がとやかく言っても気にも留めないだろうなって思い込んでたんです。素人は黙っとれ、みたいな感じで(笑) …だから、最初に彼女から相談を受けた時はちょっとビックリして。ただそれで、あっ、妖精も人間と同じことで悩んだり落ち込んだりするんだって。妖精だからどうの人間だからどうのっていうのは、思い込みだったんだって気付いたんです」
貴方の言葉に、私はそう続けた。
"人間としての私"として。さも人間であるかのような物言いで。
実際のところは…偽り続ける私よりも、偽らずに真っ向勝負する貴方の方が、よっぽど強いと思っているのだけれど。
…私の思い込みかしら?
(「精楽の森」―精楽 妖音―)
11/7/2024, 12:11:56 PM