星蒼楼

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こんな夢を見た

「今日さ、こんな夢見たんだよね」
 脈絡はなく、ただの雑談。こいつならどんな反応をしてくれるのか気になって、適当にフってみた。
 こっちは期待してるんだ。さあ来い、面白い返し!
「いやこんなってどんなだよ。あ、夢と言えばさあ、」
「いや普通かよ!」
 軽く笑ったかと思えば何のひねりもなく普通にツッコまれただけで、すぐに別の話題に移ろうとしてきた。まあ確かに休み時間の短い間に薄っぺらくて意味の無い会話をしているだけだから、こんなふうに軽くいなすのが正解なのかもしれないが。それにしても。
「こっちは期待してんだからさぁ、もうちょっといい感じの返答くださいよ」
「さっきから何の話?」
「今のこんな夢のやつ。あれ渾身のボケだったんだから、もうちょっといい感じにツッコんでほしかったなー」
「いやあれぱっと思いついただけのくそ適当なボケだろ」
「バレたか」
 さすがだ。こいつは俺のことなら大体何でもお見通しだ。でもそのせいで嘘も冗談も通じなかったりするからやっかいな奴。

「でもさ、お前だったらこんな適当なフリでも面白く返してくれるかなって期待してたわけよ。まさか綺麗にかわしてくるなんてちょっと残念だったのはしょうがなくない?」
「そっちが勝手に期待して勝手にがっかりしてるだけだろ」
「あくまでもこっちのせいなのね。まあおっしゃる通りでございますけど」
 ほんとにこいつには敵わない。ムカつく。
 でもなんだろう、こうやって何でも言い合えて気を張らなくていいのがものすごく居心地がいいんだよな。それもまたムカつくけど。

「てかあれ? もう授業始まるのに教室誰もいなくね?」
 その言葉でふと周りを見渡すと、確かに、俺たち二人しか残っていなかった。
「ほんとだ。俺らだけやん。うぇーい」
「うるっさ。え、次英語だよね?」
「そのはずだけど。……って違うじゃん、三限化学じゃん!」
「まじか、化学室かよ」
 まさかの驚きにばっと顔を上げると、向こうの視線も同じタイミングで俺の顔を捉えた。そのままじっと数秒間見つめ合っていたが、耐えきれなくなってどちらからともなく吹き出す。
「ふははは、やっば」
「あははは、まじか」
「てかまじで急がなきゃやばくね?」
「そうだよな、とりあえず走るか」
 急いで教科書をまとめた俺たちは、笑いながら教室を飛び出した。

1/23/2024, 5:39:29 PM