泡藤こもん

Open App

ちょうど一年前、私は彼とふたり家族だった。
今は別のひととふたり家族。
一年間って、長いようで、早いようで、何とも絶妙だ。
例えば彼がいなくなってしまったことはまるで昨日の出来事みたいに胸を苛むのに、一昨日の朝ごはんに何を作ったかなんてそんなことは思い出せないのだから。
窓から射し込む朝の光に目を細めていると、ぱしん!と頬を叩かれる。眉を寄せてゆっくり体を起こした。
「んー⋯⋯まぁ!」
「もう、叩かないでってば」
彼そっくりのくせっ毛を直してやって、よいしょっと掛け声をつけて抱き上げる。随分と重くなった。
一年前は影も形も無かった癖に。
「朝ごはんは何にしようかなー」
「ぱぁ、あぶー」
とりあえず。彼のことを忘れるのには、一年じゃあまだ足りないみたいだ。

6/17/2023, 5:35:35 AM