楽園
悲しみも苦しみもないのではなく、悲しむことも苦しむことも忘れてしまったのかもしれない。
涙を忘れて、傷つく心を忘れて、生のバランスを宙に浮かべて過ごしている状態というのは、多分人にとっての幸福と似た感覚でもあり、危ういのだろう。ともかく、最初の人間は追放された。
たとえそこに不時着できたとしても、この世のおよそ美しいといえるものたちがいつも刹那的であるように、永くいられる場所ではないのだとは思う。
それでも、ふとした日常の狭間に、目を閉じてみる。
そうしたら、冷たい砂漠に落ちるように、はたまた真冬の夜空が広がるように、
そこにパラダイスがあることを、夢にみる。
4/30/2023, 12:52:31 PM