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ある晩、ふと気づくと頬杖をついた左手の小指から赤い糸が伸びていた。
さてこれはなんだろうと手繰り寄せてみると、どうやら部屋の外へと続いている。
部屋着のまま、サンダルをつっかけ外へ出る。
あたりは暗く、街灯も少ない。
にもかかわらず、赤い糸はそれ自体が光を放っているように、暗闇の中に浮かんで見えた。

糸は十字路を右に折れた。手繰り寄せつつ、僕も右へ曲がる。小さなアパートがあらわれ、糸はその二階の真ん中の部屋のドアへと伸びていた。
階段を上り、部屋の前に立つ。郵便受けから赤い糸が垂れている。
郵便受けから部屋の中を覗きたい衝動に駆られたが、なんとか押し留めて糸を軽く引っ張ってみる。
かすかな手応えと一緒に郵便受けから出てきたのは、糸の塊だった。
こんがらがった赤い糸。
そっと手に取ると、僕はほとんど無意識に、糸の塊を解こうとして力を込めて引っ張っていた。

絡まったイヤホンを力任せに引っ張って、無惨にちぎってしまったときのことを瞬間的に思い出した。

ぶちっと、やけに大きな音を立てて糸がちぎれた刹那、僕は自分の部屋の中にいた。
いつの間にか夜は明けている。
左手を顔の前にかざして、そこにちぎれた赤い糸があることをみとめる。


僕は再び十字路を右へ曲がる。
小さなアパートの二階の真ん中の部屋。
しかしそこにあったのは、上下に二部屋ずつ―――真ん中などなかった。

左手の小指の赤い糸が、はらり、と解ける。


7/1/2024, 9:41:06 AM