大学の講義の間、所謂空きコマ。君と話しながらそれぞれ課題を進めていると鼻腔を擽る知らない香り。
「香水変えた?」
「うん、変えた。……前のとどっちが好き?」
「どちらも好きだけど……」
一度言葉を切って君をちらりと窺い見る。四人掛けのテーブル席の斜め前に座る君。尋ねた声音こそ神妙だったものの特に変わった様子は見られない。
「今の君には、今日の香りが似合うと思うよ」
君は目を瞠って息を詰めた。察したけれど、察したが故に課題に視線を落とす。
「ずるいなあ」
狡いのは君だろう。何も気付かないと思っているのか。君の少し腫れた目元は隠しきれていない。普段この曜日のこの時間は専らひとりで過ごしていて、君と一緒なのは初めてだ。
君が恋人と過ごしていたことを知っている。
君がずっと纏わせていた香りも好きだった。けれど、前に進む君に贈るには相応しくない言葉だろう。
新しい香りを纏ってまた君らしく輝いて。
8/30/2024, 12:58:28 PM