『君の声がする』
些細な喧嘩がきっかけだった。
彼女に直ぐ歩み寄れば良かったもののどちらも変に意地を張り、最後は彼女の「ここは私の部屋だから出ていって!」の言葉で同居を解消、結局別れることになった。
その後引っ越したこのアパートで、もう半年以上経つ。けれど考えることは彼女のことばかりだった。嫌いになった訳じゃない。喧嘩さえしなければ…。そんな思いがずっと自分を苦しめた。
「……て」
何処かから女性の声が聞こえる。それは次第に大きくなり、それが自分の部屋の中からだと分かると恐ろしさに震えた。
「出ていって」
はっきりと聞こえた声は、驚くことに彼女のものだった。何故彼女の声が?訳もわかぬまま連日彼女の声が部屋に響く。そしてその声は日を追うごとに叫びに変わっていった。
「出ていって!」
心の何処かで彼女もまだ自分を想ってくれていたら…と思っていたが、そんな考えは吹き飛んだ。そうか、こうして生霊になって出るほど自分が憎かったのか。
分かった。こんなに君から嫌われているなら、もっと遠くへ行ってやる!
住んでいたアパートが火事で全焼したとニュースで流れたのは、そこから引っ越して1週間後のことだった。
2/16/2025, 9:24:11 AM