“世界の終わりに君と”
『あら、こんにちは』
荒廃した都市の残骸の中で商人が一人。
土で汚れた手を払いながら静かに微笑む。
見渡す限り死体は転がっていなかった。
「最後の一人を埋葬してたのかい?」
商人は私の顔を見た。
そして静かに首を振った。
『いいえ。二人よ』
崩れた壁にもたれかかって、長い睫毛を伏せる。
私が隣に腰を下ろすと、商人は言った。
『ねぇ、何か御話を聞かせてちょうだい』
「無茶を言わないでくれ。こっちだって眠りたいんだ」
『…そう。それなら私が話してあげるわ』
商人が紡ぐ言の葉に私は静かに耳を傾ける。
そうね、これは少し前の事ね。
ある日突然、空が真っ赤に染まったの。
それで、建物が次々に崩れていった。
まるで見えない何かに砲撃されてるみたいに。
ほとんどの生物が死んでしまったわ。
粉々になって、跡形も残らず。
どうにか生き延びた人間もいたけれど、食料は限られてる。
大人達の醜い争いが起こったわ。
でもね、生き延びてたのは大人だけじゃなかった。
当たり前よね。
まだ幼い双子がいたの。
偉かったわ。あの子たち。
お腹が空いてるはずなのに、泣き出してしまいたいはずなのに、せっかく苦労して手に入れた食料を、笑顔で、何もしないで喧嘩ばかりの大人達に分け与えた。
毎日毎日数kmも歩いて、食料を探して。
両手にいっぱい食料を抱えて戻ってきて。
それを全部大人に取られて。
私、あの子達にご飯を分けてあげてたの。
だって、あまりに可哀想じゃない。
私があの子達にご飯をあげるようになっても、変わらず食料を探しに行ってたわ。
でも、子供の足じゃそんなに遠くへは行けない。
だんだん持って帰れる食料が減ったの。
また、大人達が争って、沢山死人が出たわ。
可哀想に、あの子達病気にかかってしまったの。
そんなんじゃ食料を探しになんて行けないから、私がずっと面倒を見てた。
残った大人は飢えてようやく気がついたのね、でも、もう遅かったわ。
水も、食料も、もう残ってない。
そうやって大人はみんな居なくなったの。
双子は、私が目を離した隙に死んでたわ。
二人仲良く抱き合って。
ピストルが落ちてたわ。
心中したのね。きっと。
『……ねぇ』
『………………ああ』
『眠ったのね。私も、あなたと一緒に眠ろうかしら』
6/7/2023, 12:23:58 PM