水晶片の割りベッコウ飴、宝石の琥珀糖、
少し塩味も欲しいので、塩バター味のさつまいもチップスを1袋、2袋。
おやおや、カロリーオーバーの予感です……
と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近のおはなしです。
都内某所、某不思議な私立図書館の館長は、
ただただ自分の好きなことだけを為して、他のことはだいたい半分いや過半数、他人まかせ。
「おや。茶菓子が足りませんね」
その日も館長、館長室で茶を淹れて、お菓子を食べて、またお茶を飲んで菓子を食べて、
気がついたらお気に入りの琥珀糖が残り1個。
「ツバメ!ツバメ。丁度良いところに来ました。
おまえ、ちょっと茶菓子を買ってきなさい」
「何故私があなたのパシりを?」
たまたま館長室の近くに来ておった、「ツバメ」と呼ばれた別組織の局員さんは、
ため息吐いて、館長の方を見て、再度、ため息。
良くない予感がするのでした。
とてもとても、良くない予感がしたのでした。
「これがリストです。1時間で戻りなさい」
「だから、どこに、世界線管理局の私が、全世界図書館のあなたのパシりをする理由があるんです。
あなたのワガママは、あなた自身の組織の部下に、指示を出せば良いでしょう」
「この図書館を、特に図書館の地下1階を、
お前たち管理局に無償で解放しているのは私です」
「そこは感謝しています」
「お前達は私の厚意と温情に報いるべきです」
「はぁ」
「ついでにセンブリ茶も買ってきなさい」
「私にも仕事があるので失礼s」
「なりません。買ってきなさい。さもなければお前の魂をゆっくり取り出してペロペロします」
「……ヘンタイ」
「ド変態です!訂正なさい」
あーあー、あーあー。嫌な奴に捕まった。
ツバメは館長からメモを受け取って、またため息。
買い物メモを確認してみると、
稲荷神社近くの茶葉屋の茶っ葉に
その近所の和菓子屋の琥珀糖、割りベッコウ飴、それから他のお店のさつまいもチップスを2袋、
それと、
魔女の喫茶店からドラゴンチョコ——ホットミルクを入れるとお風呂に入っているように見えるドラゴンのチョコを3箱と1袋。
「温泉ドラゴンチョコ???」
「例の魔女が、先週から販売しているそうです」
「はぁ」
「味が3種類あります。イチゴチョコに普通のチョコ、みかんチョコ。1箱ずつ買ってきなさい」
「は……」
こういうときに、何か悪い予感を事前に察知して、そこから脱出できるような魔法菓子、無いかな。
ツバメは面倒な顔をして、館長室から出ていって、
そして、腕時計を確認しました。
1時間で買い物リストの品物を全部、買って戻らなければならないそうです。
ツバメのスマホに届いた「魔女の喫茶店」からのメッセージによれば、
まさしくその「買い物リスト」の中身を全部、
事前に、占いに基づいて、揃えているとのこと。
「ありがたい」
ツバメはまっすぐ、魔女の喫茶店に向かいました。
魔女の喫茶店の店主は、実はツバメと同じ職場に勤めている異部署の同僚なのでした。
「彼女に頼めば予感キャンディーだの、予感クッキーだの、そういうの売ってくれないだろうか」
多分あります。
「一袋くらい貰っていくか……」
多分高額です。
さて。
「アンゴラさん!世話になります、ツバメです」
魔女の喫茶店に到着したツバメです。
心地良いオルゴールの響く中、店主に顔を出して、
そして、店主が丁寧に詰めてくれた、
「まさしく今日、例の不思議な私立図書館の館長が欲しがるだろうお菓子とお茶のセット」を、
受け取って、代金を渡しました。
「本当に助かりました」
ツバメは深々とお辞儀して、礼を言いました。
「また何かあったら」
また何かあったら、よろしくお願いします。
そう続けようとした、そのときでした。
コーヒーが大好きなツバメの目の前に
ドリップコーヒーの飲み比べパックの、
10種類10袋ずつ、合計100袋セットの箱が、
特価4割引きで、置かれておったのです。
「10種類、飲み比べパック……??」
ツバメの心が揺れ動きます。
飲み比べ100袋セットの価格は4000円です。
ぶっちゃけ、買えるだけの給料は貰っています。
でも今買っていったら良くない予感がするのです。
「……」
飲み比べセットの10種類を、じっくり、熱心に、なぞるように舐めるように確認します。
「あんごらさん……?」
「予感」がお題のおはなしでした。その後ツバメがどうなったかは、気にしない、気にしない。
10/22/2025, 9:37:41 AM