作家志望の高校生

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やってしまった。
目の前に広がる惨状の原因が自分であることに、今更後悔と吐き気が込み上げてくる。右手に握ったナイフから、まだ生温かい体液が滴る。外は新月なのか真っ暗で、星がよく見える。窓から見える景色の綺麗さと、室内に立ち込める鉄臭い匂いがアンマッチで目眩がした。なんとか息を整え、後始末をしようと体の向きを変えた瞬間だった。
「…………え?」
目が、合ってしまった。いつも自分を導いてくれる、大切な幼馴染。今だけは、会いたくなかった。どうしてこんな時間に家に来たのか、見られてしまった、どうしよう、と様々な思考が頭を巡って言葉が出ない。1秒が1時間にも感じられる静寂を、彼が先に破った。
「……後処理、手伝うよ。」
一瞬、全ての思考が停止する。自分を導いてくれたはずの彼が、手伝う?何を?思わず彼の顔を見上げると、彼は笑っていた。夏休みの課題の手伝いを申し出るのと変わらない調子で、犯罪の片棒を担ごうとしている。ああ、でも。
「…………うん、お願い……」
いつも僕を導いてくれた、いつも正しかった彼が言うのなら。これはきっと、おかしなことではないのではないか。僕の手を引いてくれた温かい手が、命を失った肉の塊を解体する。僕の前を歩いてくれた足が、躊躇なく血溜まりを踏んでいく。2人がかりで始末をして、どうにか日が昇る前に大まかな掃除が終わった。解体したものは山に運んで、場所をずらして2人で埋めた。血で汚れた服を焼きながら、彼の横顔をぼんやりと眺める。彼が言うなら、間違いも正しいことになる。僕の心の羅針盤は、とっくに見当違いの方を指していた。

テーマ:心の羅針盤

8/7/2025, 10:37:20 AM