フィロ

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昨夜祖母の夢を見た
律子は急にお稲荷さんが食べたくなり朝から油揚げを炊いている

律子の料理好きは祖母譲りで、幼い頃から祖母の手ほどきを受けた
野菜の切り方や食材の丁寧な処理の仕方、それぞれの作業の意味や、その料理に込めた昔の人々の思いなどについても、祖母はひとつひとつ丁寧に教えてくれた

今と違って食材や道具が豊富には無かった頃、如何に人々は工夫しながら食卓を豊かに彩る工夫をしていたかを知った律子は子供心にもとても感銘を受けたものだった

そんな祖母から直伝のお稲荷さん
少し甘めで、黒砂糖を使うのでコクも色も味わい深い
そしてもう一つの特徴が、おあげさんを裏返しにひっくり返して作るお稲荷さんもあること
表のままのものと裏返しにした2種類が出来上がるのだ

「この裏返しにしたお稲荷さんは何だかボコボコしていて汚らしいよ  律子はあんまり好きじゃない」
と言う律子に祖母は言った

「味はまったく同じでしょう?見た目が少し違うだけ   中身は同じなのに汚らしいとか不味そうとか言ってはいけないよ  見た目の違いはそれぞれの特徴で個性なんだよ  
このお稲荷さんはね、物事には裏と表があるけれども、その二つが合わさってひとつなんだと  片方だけを見て判断してはいけない、という戒めの意味もあるんだよ」


そんな祖母の言葉を懐かしく思い出しながら、律子は裏返しにしたおあげさんにすし飯を優しく詰めていく

今では、その裏返しにしたお稲荷さんの方が口に入れた食感が面白くて大好きだ


律子も娘が大きくなったらそんな話をしながらお稲荷さんの作り方を教えてあげたいと思っている




『裏返し』

8/23/2024, 4:24:13 AM