今日も僕は透明になる
そういう仕事だ
「車内の人お願いしまーす」
遠くの方で集合の声がかかる
今日は電車内のセットで、ガタゴトという効果音にあわせて頭をかすかに揺らすお仕事
エキストラ
最近はテレビ局の無料会員のような
ドラマに出られる!を売りにする募集もあり、素人さんもあるけど、
僕は一応仕出し事務所にいるプロだ
セリフも動きも無いのにプロも素人もないって?
そんなことはない
これでも結構大変なのだ
まずギャラがある以上、待ち時間がどれだけあっても僕達は文句一つ言わない
衣装も自前が多い
ま、時代劇は流石に自前じゃないけどね
日によってはスタンドイン(カメラテスト用替え玉)だって引き受ける
そして、一番重要なのが
透明になること
そう、僕らは風景なのだ
動かなければいいのでは無い、ちゃんと動いて生きてて、それでいて自然に溶け込んだ風景
スポットライトはメインの役者
引き立て役は脇を固める役者
そして僕らは輪郭すらもたない透明な役者
スポットライトに照らされることを夢見たこともあった
でも、僕には輝かしいスターの素質はなかった
顔は、特筆すべきほど美男子でも
忘れられないほどブサイクでもなかった
匂い立つような色気もなければ
目を引くような華のある演技力もなかった
だからその全てから否定された道を選んだ
目立ってはいけない
意味を持たせてはいけない
その場その時の空気に合わせて許される範囲でアドリブをする
誰になんと言われようど
立派な役者なのだ
§透明
5/21/2024, 4:46:21 PM