川柳えむ

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 黄昏時、学校の屋上から夕焼けに染まる街を見ていた。遠くの山に太陽が沈んでいく。もうすぐ闇夜が訪れる。

「いけないんだ。立入禁止だよ、ここ」

 背後から突然声をかけられた。
 この声はクラスメイトであり幼馴染のあいつだろう。
 そのまま横にやって来て、並んで夕焼けを見始めた。

「綺麗だねぇ」

 隣からはしゃぐ声が聞こえる。

「立入禁止だぞ」
「先にいたあんたがそれ言う〜? それに私が先に注意したんですけど!」

 からかうと、一瞬で不満そうな声に切り替わった。
 あぁ、やっぱりこいつといると楽しいな。一人でいたって、簡単に見つけ出してくれる。

 美しい夕焼け。二人しかいない空間。
 もしかしたら、今なんじゃないのか。ずっと胸に仕舞っていた気持ちを伝えるのは。

「好きだ」

 前を向いたまま、俺はそう伝えた。
 あいつの顔の方を向けない。だって、きっと真っ赤になっている。でもそうツッコまれたって、夕焼けのせいだって言い訳しよう。
 あー心臓が今にも飛び出しそうだ。
 何か言ってくれ。俺は我慢しきれなくなってあいつの方を向いた。

 黄昏は誰そ彼とも書くらしい。夕暮れで人が識別できなくなる時分だと。
 そして黄昏時は逢魔時とも言う。読んで字の如く魔物に逢う時分だと。
 初めて聞いた時、どちらもなんだか恐ろしい言葉だなって感じたことを、急に思い出した。

 夕焼けの太陽の光に目をやられ過ぎたのか、それとも夜が近くなって少しずつ薄暗くなってきたからなのか、あいつの顔が見えなかった。


『たそがれ』

10/1/2023, 8:54:57 PM