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♯七色


「お前は毎日楽しそうでいいな」
 自主練を切り上げて、体育館を出ようとしたら、突然そんなことを言われた。タオルで汗を拭きながら振り返ると、ボールを持ったチームメイトが仁王立ちに突っ立っている。入部当初から何かと噛みついてくるこのチームメイトが、オレには少しだけ面倒くさい。けど、それを態度に出したらいけないことは、よくわかっている。
 妬み、嫉み、僻み……それに気づかないふりをして目をまたたかせるオレに、チームメイトはさらに苛立ちを募らせたのだろう、吐き捨てるような口調で言った。
「どうせ、お前が見ている世界と、オレが見ている世界は違うんだ」
 色褪せた世界に住む自分と、七色の光に溢れる世界に住むチームメイト。オレだって、お前みたいにみんなから頼られる、みんなを支えられるような、そんなプレイヤーになりたかった。
 そんなの、ただの幻想だ――ため息をつきたくなるのを、オレはこらえる。
 オレの目で見る世界がほんとうに輝いてるか、いっぺん目ん玉交換しよっか。
 そう言ったところで、火に油を注ぐ結果にしかならないことも、よくわかっている。
 うーん、どうだろうなあと、オレは今回も口を濁すしかなかった。

3/27/2025, 1:48:36 AM