『–––世界平和のためにできることは、
家に帰って、家族を愛すること。』
誰の言葉だったかな・・。えーっと・・
日本人ではなくて、確か女性で・・。
そうだ。
マザーテレサだ。
彼女が残した功績や名言はいろいろあるけれど、私の中ではこれが一番心に響いた。
あまり彼女のことを知っているわけではない。
だけど、彼女の存在が今この現在でも息づいていることくらいは知っている。
特に道徳や人道の書物を何冊か開けば、高い確率で彼女の名を目にする。
人は十人十色。
世界平和の定義も、愛のあり方も人によって、はたまた国や文化によって異なる。
彼女の、家に帰って家族を愛すること、が
本当に平和につながるのかは、
簡単に言い切れるものではないのかもしれない。
だけど、私は誰かを想うことが世界平和の要であると信じている。
ねえ、この漫画、アニメになってて、今人気なんだよ!見たことある?
そうなんだ。ごめんね、私は知らないなぁ。
だからさ、どんなお話なのか教えてくれる?
うん!いいよ!
えっとね、宇宙人が地球を征服しようとやってくるんだ。だけど、地球のおいしいものやゲームが大好きになって、敵のはずなのにゲーマーと仲良くなっていって・・
見て見て!昨日やっと完成したんだ!
マフラーって、ただまっすぐ編むだけかと思ったけど、目の数がだんだんわからなくなってきて・・途中で目の数が合わなくなっててやり直してさ。
それはおつかれさま。大変だったね。
だけど、あったかそうじゃない。手作りのマフラーって、作り手の気持ちがこもってて良いなって思うよ。
あれ、どうしたの?泣いているのは、怪我したのかな?あー・・・これは痛そうだね。
どうして怪我したの?
うぅ・・ボール遊びしてて、転んだの・・。
そっかそっか。痛かったねー。
絆創膏貼ってあげるから、もう大丈夫だよ。
ほら、あっちに一緒に行こう。
お菓子もあるよ。食べる?
食べる!
側から見たら、何気ない子供達とのやりとりだと、思われている。だけど、その何気ない会話が彼らにはなかなかなくて、貴重なものなのだ。
家族と一緒に住んでいても、なかなか気持ちを受け止めてもらえない子供達は多い。
子供に限らず、多くの人が気持ちを受け止めてもらう場がなかなかない。
アニメやゲームの話をすると、そんなものより勉強しなさいと言われたり、
手芸なんかしてないで、家事を手伝えと言われたり、
怪我をしても泣くことも許されなかったり。
私はそんな人の思いをよく聞く。
それは、もともとの性分でもあるけど、気持ちを受け止めて共感して、寄り添うと、
人は解決策を授けられたわけではなくても、
表情が柔らかくなるからだ。
私は、その表情が好きだ。
人の心には、本来愛があると思う。それは、受け止め合って共有することで、大きくなるような気がする。
その連鎖が、平和への要なのではないかな。
またね!今度は続編出たら教えてあげるね!
バイバイ。今度はもっとうまく作るんだ。
今度は・・一緒に、ボール遊びしたい・・。
そんな彼らの柔らかくなった表情の先に、
いつか平和がある気がする。
おかえり。今日もおつかれさま。
珍しく彼が迎えにきてくれていた。
ただいま、と応えて一緒に歩き出す。
君は相変わらず聞き上手だな。受け止め上手っていうのかな・・。どうしたら、そんな風になれるんだ?
と、聞かれても、自分では特別意識して何かをしているわけではない。だから、うまく答えられない。
でも、マザーテレサの言葉を思い出して––
平和のために、家族を愛する。って言葉があるでしょ。
私にとっての、その愛は、相手のありのままの気持ちに寄り添ってあげることだと思うんだ。良いとか悪いとか判断せずに、気持ちを肯定することだと思うの。
それが、私にできることだから。
そう答えると、彼は手を繋いできた。
じゃあ、オレに君の気持ちを聞かせて。
なかなか君は自分の気持ちを話してくれないからさ。たまには聞かせてよ。
君を見習って、ありのまま受け止められるよう頑張るからさ。
どうしたの?急に。と、聞くと––
世界平和のためにできることは、
家に帰って、家族を愛すること。
なんだろ?
だったら、オレができる世界平和の第一歩は、君の気持ちを受け止めることだ。
そうだろ?と、笑う彼の表情は
いつにも増して、素敵に見えた。
そっか。
愛するだけでは、
平和にはならないのかもしれない。
彼から愛されることを受け止めることも、
相手からの愛を受け止めることも、
平和に必要なのだろう。
3/11/2024, 3:58:37 AM