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小学校のころ。
HちゃんとAちゃんとの帰り道は、いつだって冒険だった。

「白線の外は海ってことね」
そう決めて、白線の上を3人で縦になって歩く。
ふざけて片足をアスファルトにつけると
「それ、ドボンだよ」
と真剣な指摘をされ、「片足が乗ってればセーフなんだよ」とその場で作ったルールを追加して笑った。

「陰から出たら体がとけるってことね」
そう決めて、塀を伝って歩く。
遮るもののない交差点だけは、誰かが犠牲になる番。
「ぅわぁぁ」
と叫びながら走る陰にうまく隠れて笑った。



いつしか大人になり、育った町も出て、
風の噂すら届かないほど、2人とは遠くなった。



木漏れ日の跡だけを踏んで歩く散歩道。
足もとに落ちる光のいびつな模様は、
3人で決めたルールのかけら。
リズムよくステップを踏めるときもあれば、
少し踏み込んでジャンプする時もある。

ひとりぼっちの散歩道。
ひとりぼっちに見えていても、私は。
あの頃の3人で、いまも遊んでいる。


お題:木漏れ日の跡

11/15/2025, 1:50:32 PM