「ごめんね」
ああなんて毒を孕んだ目だ。
寂しげに呟いて翻すその身を引き留めた。
「ふざけるな!」
ああ、頭のどこかで声がする。危険だ、この先は引き返せない。後戻り出来なくなる。だがこのままこの女を手放すことなど、とうの昔に出来なくなっていた。
なあ、この極まりない、ろくでもない話の際まで追い込んでおいて、こんな酷い結末はないだろう?
「おれは!お前のものになりたいのに!そうさせてくれないのはお前だろ!?」
散々誑かして、惑わせて、夢中にさせておいて、
最後の最後で冗談にまぎらわせて、結局辿り着かせてなどくれない。なんて酷い女だろう、なんて残酷な。
「いいんだね」
「何がっ」
「逃げ道を塞いだのは、君だよ」
なんて目で自分を見るのだ。まるで夜の底を這う蛇だ、焦げ付いた目で、獲物の首筋に喰らいつく直前のような目で、
ああ、なんて目で。
リンカーンはぐいと強気に笑った。どうか笑えていますようにと、今初めて自分の事を主に願った。
「望むところだ、馬鹿野郎」
5/29/2024, 12:14:39 PM