Ichii

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踊りませんか?

彼女は不利なことがあると首を傾げてこちらをちらりと伺う癖がある。それに気付いたのは何度目かの彼女の"やらかし"の時のこと。すこしドジなところがある彼女は元来のマイペースな性格と相俟って、時折そこそこのことをやらかす。わざとでは無いことはわかっているが、それに付き合わされる此方の身としては文句の幾ばくかは言いたくなるもので。初めは苦笑いですませていたが次第に小言をこぼすようになった。
今回も彼女は仕出かしてくれた。帰宅していつも一番に出迎えてくれる彼女の姿はなく、怪訝に思いながらリビングの扉を開くと、やってしまったという表情の彼女と床に散らばる無惨な欠片とかしたお揃いで買い揃えた猫とぺんぎんのマグカップ。幸い何も注いでいなかったのか、液体の飛び散った痕はなかった。
「おかえりぃ...」
決まりの悪そうな彼女に見たところ怪我がないのを確認してから、今度はそうきたかと思わず溜息をつく。それを見て彼女は慌てふためき出した。こちらに向かおうとして、しかし破片がまだ片付けられてないから近寄れず、ぱたぱたと身振り手振りで釈明をし始めた。悪気がないのはわかっている。しかしあわあわと狼狽える姿が小動物のようで愛らしいのと、開幕言い訳から始まったことへの罰も含めてすこし様子を見ることにした。暫し彼女の弁明はつづいたが、そのさえずりは少しずつこちらを絆すものへと変わっていった。
「また一緒に買いに行こ?ね、今度の土日二人とも休みだし。デートしよ?」
またお揃いにしようね、なんて。眉を下げて許しを乞う顔と首を傾げて此方の機嫌を伺う様子に、脱力感と共にほんとに仕方がないやつだという惚れた弱みが白旗をあげる。
そういうことすれば許されると思うだなんて、仕方の無いやつめ。
敢えて踊らせれてるんだ、なんて考えてるけどきっとこれも彼女の手のひらの上のこと。きっと、一生踊り続けるんだろうな。

10/4/2023, 1:05:23 PM