あい

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足取りが軽い、さっきまで変な感じだった心臓の音も落ち着いた。うそ、落ち着いてない。違うリズムになっただけだ、逆に。でもさっきよりははるかにマシっーか、うん、いい感じ!
今日から、つい数分前から違う関係になった智加が隣を歩いている。緊張してるのか、興奮してるのか、相変わらずわかりにくい。バイトが同じで、俺の少し先輩で、軽薄に見えるけど実は面倒見がいいタイプだって、俺は知ってた。というか俺だけ知ってる!うんうん、こういうのってなんかいい。特別って感じだし、優越感。
こっそり持って帰ろうとした廃棄の弁当を「それ不味いけど」って、別のやつをすすめてくれた時から優しいって思ってた。だって弁当だぜ?別に不味くてもコンビニだからしかたねぇし、なによりタダだ。友達でもない俺にわざわざ教える理由もなくて、めんどうだろ。俺は自分で言うのもアレだけど、人から好かれる人間じゃない、もちろん、見た目のことだ。中身は良い!テレビのかわいそうなニュースで泣いちゃうし、揉めごとがあると仲裁したくなる。捨て猫なんて絶対に許せねぇ!死ね!だけど俺の中身なんて誰も見てないから、悲しいことに嫌われる。
だから智加だと思った。ぜってぇこいつだって。ドキドキしながらアパートを訪ねて、ダサいことに震える指でインターホンを押した。顔を見てちょっと後悔、なんて今まで縁のなかった文字が頭に浮かんだけど、男は度胸だから言った。裏返る俺の声に笑って、秒で「いいよ」って。実を言うと、そんなに簡単に返事すること?って思った。でもありがてぇし嬉しい。それから「車出すね」と、アパートから少し離れたところにあるらしい駐車場まで一緒に歩いている。
街灯の下、ちらりと智加の顔を見る。やっぱりなにを考えてるかわからない。でも嫌な気分じゃないはずだ。それならいいよとは言わないし、付き合ってくれるわけがない。それにわからなくても問題ない。智加は今俺の隣で歩いているし、これから俺の部屋まで来てくれるんだから。
「優希くん、あのさぁ」
羽虫のたかる嘘くさいライトの下で智加が口を開いた。おお、今さらナシってのは困るんだけどな。
「絞殺?撲殺?刺殺?」
「あ?えーっと、風呂場に、裸で」
「溺死殺人か〜。とりあえず早く引きあげないとね」
智加は「袋一枚三円です」って言うみたいにいつも通りだ。
やっぱりこいつに告白してよかった!

4/13/2023, 12:58:19 PM