彼とわたしと

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“行かないで”

口を突いて出た言葉だった。私とせっかく話をしていたのに、少しの沈黙が続くと先生は椅子から立ち上がる。私は先生のことが、好きで、もっとお話がしたかった。優等生の偉い子のままでいたかったから、話すことは全部授業内容に関係することを選んでいた。けれど、口を突いて出た。

「“行かないで”、、戻らないでください。」

「?わかりました、何かございましたか?」
そういう柔らかな言葉遣いが、彼の言葉が大好き

「音読して欲しいです。この前やったところを…」
彼に授業で教えて頂いた私の教科書ページを見せると

「これはもう終わってしまったものでしょう?では、3年生が行う文章を読んで差し上げましょう。」
読んでくださるのが嬉しくて、私は次の言葉を待つ。

「すごい、僕の言葉を沢山拾ってくださっているんですね。メモが多い」
          「…ぁ、ぇ、っ、そうですね、どれも勉強になる言葉ばかりで。」

なんとか勉強熱心な生徒ということでこれは丸く収まったが(隠しきれない陰キャ感は否めないが)一歩間違えていればただ彼への愛情が強すぎるおかしな生徒になるところだった。勉強を怠らず努力していると、たまにこういう危機回避ができる。なんでそんなに勉強できるの?と言われた時は毎回、こう思ってしまう私の下心を、いつか殺してしまいたい

10/24/2024, 1:00:45 PM