sleeping_min

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【好きな本】(300字)

「やっと手に入れたぞ!」
 配達ドローンが届けてくれた小包みはずっしりと重かった。矢も盾もたまらず、玄関先で開封する。ざらりとした布張りの手触り。古びた紙の匂い。表紙を彩る掠れた箔。ああ、これこそ、私が求めていた本だ。
「また買ったの? 昔の記録ならアーカイブでいくらでも読めるのに。っていうか、それ何語?」
 私の騒ぎが気になったのか、弟が玄関に顔を出す。
「この感じ、英語かな?」
「そんな古代語、読めないくせに」
「読む必要なんてない。昔の人だって、本を積むだけで満足していたそうだから」
 中が読めずとも、私はこの儚い紙と布の感触が好きなんだ。存分に頬擦りしてから、いつもの保存カプセルの中に積んでおこう。

6/16/2024, 1:29:45 AM